国内夜間MBAの振り返り Part2.5 / 生物や生態系を企業経営に活かす

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Part2より続く

先週上げたばかりの東京都立大学大学院MBAプログラムの記事が、想像以上にたくさんの方に興味を持っていただけたので、急遽もう1本書くことにしました。Part2とPart3の間に位置づける形で、2年間の授業全体を総括し、いかに東京都立大学の授業が素晴らしいか、という内容を書こうと思います。

カリキュラム

東京都立大学のMBA課程において、数多くの授業を履修した中で思い出深い授業を3つ選ぶとしたら、「事業リスクマネジメント」、「シナリオプランニングとリアルオプション」、「ファイナンシャル・プランニング」、そして「CSR」です。3つに絞れません。このチョイスには、都立大の特徴がよく表れていると感じます。これらはどれも、外部の実務家の先生方を招聘して開講されている科目であり、先生方の豊富な実体験に基づく大変興味深いお話を聞くことができます。残念ながら1つめの科目の先生は今年度ご担当されないと伺っていますが、いずれも通われている方には是非ともおすすめしたい科目となります。

ここでくれぐれも誤解しないでいただきたいのは、専任教員の先生方による、最先端の研究にも触れながら行われる「学問としての経営学」の授業も、もちろん非常に面白いということです。各分野の基礎的な理論を同時に学ぶことができるからこそ、それらがベースとなって、実務寄りの授業もより深く理解できるようになっているのです。このことが、都立大のカリキュラムの大きな特徴だと思います。他大学との比較でよく語られる通り、学術的な理論と、実務的なケース分析をバランスよく学習できるように授業が開講されています。
経営学専攻カリキュラム

また、ゼミではマクロ組織論・ソーシャルイノベーションの研究室を選択し、修士論文では組織内・組織間のステークホルダー同士の間で働くダイナミクスに着目していた訳ですが、授業を通じて、入学前には明るくなかった企業の全社戦略・財務・会計などの内容にも、幅広く興味を持ち、理解を深めることができました。もともと、首都大物理の頃も、いろいろな分野の授業に顔を出していたことで、思わぬ繋がりが生まれてくる場面が数えきれないくらいあり、その再現の連続でした。

授業内容

どの授業も面白く、正直「合わなかった」と思う授業はほとんどありませんでした。ここでは内容をネタバレせず、是非とも実際に受講して、臨場感を感じてほしいと思います。私はオンラインで受けたので、対面授業でどのようになるか、できることなら拝見したいものです。

中でも、ファイナンシャル・プランニングの授業は、確かにCFモデリングによる、精神論ではない数字ベースでの経営上の意思決定について扱うのですが、単なるそろばんの弾き方だけでなくその前提としての基礎となる視点についても丁寧に議論されており、いかにして「数字に魂を込めていくか」を考えさせられるものでした。そして、CSRの授業は、いわゆる企業のIR担当が考えるような「いかに自社のCSR活動を推進していくか」といった小手先の方法論ではなく、社会や経済や環境の変化を捉えた上で、様々な企業の事例を調査しながら、「CSRとは何なのか」、「なぜCSRが必要なのか」を考えていくものでした。特にこの2科目は、もともとソーシャルビジネスにも比較的明るかった私のど真ん中に突き刺さり、受講前の想像を何倍も超えた満足度がありました。

おまけに何がズルいって、都立大のMBAでは、基礎的な科目(A群科目)の受講者数は10~30人程度、発展的な科目(B/C群科目)に至っては基本的に10人以下で行われるので、ディスカッションの1人あたりの発言時間はすごく長いですし、質問だってし放題です。私にとってはこの少人数教育が学部時代から当たり前でしたが、本当にすごく贅沢な時間を過ごせます。

生物や生態系を企業経営に活かす

MBA課程の2年間を通じての最後の授業、つまり修士論文の最終審査のみを残したグランドファイナルでは、M1で履修していたCSRの授業へ再度参加し、「生物や生態系を企業経営に活かす」というテーマで1時間講演させていただくという、大変貴重な経験をさせていただきました。私にとっては、2年間のMBA生活、ひいては10年間のパラレルキャリアでの学びを結集させた、修士論文とは異なる形での集大成となりました。

講演内容としては、第4次産業革命を踏まえて登場した新たな経済と、ESG・Z世代・D&Iなどの”当時”流行していたワードを1つずつ掘り下げつつ、それらへ横串を突き通す形で水族館・環境教育・複雑系という私自身の経験を交えてお話しました。まさしく、IT×金融×環境教育×物理学などのそれぞれの知見をフルに統合・インテグレーションして組立てており、正直、この話をできる人材はなかなか希少だという自負があります。スライドを期間限定でFacebookにて公開していましたが、機会さえ頂ければ、内容をUpdateしつつお話しさせていただきます。

もちろん、この講演は、MBAでの学びはもちろん、私のパラレルキャリアの中で出会った全ての皆様から頂いたたくさんの学びが背景にあって、初めて実現できたものです。どの巡り合わせが欠けても、この話は成立しえないものでした。それは、抽象的な問題に取り組む訓練を積ませていただいた首都大時代の物理学科・数学科にまでさかのぼります。さらに言えば、私が表で語ってこなかった生い立ちからも繋がっているということに、最近になって気づきました。そのため、もう自分の将来のために今を犠牲にして頑張ることを中心に据えて生きる、インストゥルメンタルな人生から卒業し、これからはもっと周りの身近にいる人が見ている今この時を大切にする、コンサマトリーな生き方をしていきたいと考えています。

以前書いた通り、ESG・Z世代・D&Iなどという言葉は、既に使い古されたバズワードとなっており、社会によるそれらの本質の理解が進んでいる一方で、多くの場合は表面的な捉えられ方や見誤り方をされているように感じます。さらに、それらに加えて新しい概念がどんどん社会にインストールされ続けています。そのため、今後、全く同じ講演をできる瞬間は二度とありえません。このような世界において、私たちが直面している「いま」を見つめる眼を研ぎ澄まし、その音声、匂い、温度や手触りそして味わいを通じて、起こっている「変化」を受け止め感じ取り、それと共に起こっていく「問題」そのものを問い直しながら、しなやかに環境へ適応しながら生きていく。まさしく、「生き物」と触れ合いながら「生態系」の中で共に生きていくのです。もちろん、変化を「受け容れる」と簡単に言葉にすることはできますが、自然界においてそれは生半可な覚悟でできるものではなく、絶えず自らの感覚を磨き続け、生き抜くための強みを伸ばし続ける必要があるでしょう。それが、生物や生態系に学ぶ、VUCAの時代の過ごし方ではないかと気づかされたのです。

Part3へ続く

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