4つの役割

この記事は約3分で読めます。


水族館の果たすべき、知られざる役割とは、教育、保全、調査研究、娯楽である。その中では、特に教育と保全が重要である。そして、今後は新たな役割も積極的に担う必要が出てくるだろう。

* 動物園と水族館の役割は、一般に同等だと考えられています。そのため本記事は、水族館を動物園に読み替えても構いません。

水族館の成り立ち

「水族館と研究や教育が、どうして関係あるの?」「水族館へ子供を連れて行く意味はあるの?」水族館業界にいない方へ、私の活動について紹介すると、多くの方からこのような質問を受けます。

本来、水族館は、人間が一方的に飼育する生物種を選定し、生物を本来の生育環境から切りはなして人間の管理下に置く施設です。つまり、存在するだけで自然に対して代償を払っている施設なのです。ここが、展示物が、ただ単に人間が拾い集めたり、人間が作ったものだけである、博物館とは違うところです。

したがって、水族館がその存在意義を認められるとすれば、生物を展示することの負を上回る価値を生み出したときです。既に海外では、「水族館で生き物を飼うべきではない。」という議論がさかんに行われている地域も存在します。

4つの役割

日本において、水族館は娯楽施設だと認識されています。しかし、娯楽を目的とするならば、「人々の喜びのためだけに、生きた生物を使ってよいのか?」という疑問に反論できません。

一方で、教育こそは、生きた生物を使うことが何よりも大きな意味を持つ、目的の1つです。いくらVR技術が進歩しても、人々は本物を見たいのです。生きた生物は、図鑑や標本ではわからない、たくさんのメッセージを私たちに伝えてくれます。特に、「生物は必ず死ぬ」という、「いのち」の重みを教えてくれます。子供の自然体験が減った現代において、水族館は、子供たちが生きた生き物に気軽に接することができる貴重な場の1つです。教育という役割については、今後さらに掘り下げます。

有識者の間では、一般的に「水族館の4つの役割は、娯楽・調査研究・保全・教育である」と言われています。私の団体でも、この4つの役割のうち、教育以外の3つは、「水族館で行う必然性がない」として教えてきました。確かに、調査研究や、保全は、とりわけ生物を一般公開して行う必要はありません。人に見せるために生物を飼育することは、単に飼育することに比べて、生物に対する負荷が大きいです。

しかし、保全活動のうち、生物の本来の生息域で行う活動(域内保全と呼ばれる)に対しては、高い公益性をもって地域社会へ発信できる水族館が果たす役割は大きいです。なぜなら、単一の施設が域内保全について成果を挙げることは困難で、他の組織や、地域住民を巻き込むことが必要になる場合が多いため。域内保全は、さまざまな外的要因が関係する状況下において、生態系とそれを取り巻く環境を調査し、持続可能な形で手を加え続ける必要がある活動です。これらを1つの施設が独力で行うことは困難です。そこで水族館は、生きた生物を展示して人々にメッセージを訴求することで、保全への協力者を増やすための大きな貢献ができるはずです。

新たな役割

価値観が一定しない現代において、水族館は新たな役割を人々に提示できるかもしれません。今後は、それらの可能性も積極的に探っていく必要があるでしょう。例えば、魚や家畜などと人々との文化的な繋がりを伝えることも、「いのち」を扱う施設に求められる1つの役割かもしれません。

コメント