水族館のボランティアというと、みなさんはどんな姿を思い浮かべるでしょうか。
来館者に展示を案内する人。生きもののことを説明してくれる人。イベントを手伝う人。どれも間違いではありません。実際、水族館の現場では、そうした役割が長く大切にされてきました。
ただ、いまあらためて考えたいのは、「これからの水族館で、ボランティアはどんな存在であるべきか?」ということです。
ごあいさつ
私はこれまで、都内水族館で14年間、ボランティア活動とその運営に関わってきました。現場で来館者と向き合うだけでなく、活動全体の運営や仕組みづくりにも携わってきたので、ボランティアについてはかなり長く考えてきたテーマの一つです。
そしてこのたび、そうした経験や問題意識を土台に、合同会社OSACANAを立ち上げました。OSACANAでは、水族館、教育、研究、発信を通じて、学びを社会につながる行動へとひらいていくことを目指しています。
今回の記事で私がいちばんお伝えしたいのは、水族館ボランティアは単なる補助役ではなく、展示と来館者をつなぎ、学びを深め、社会との接点を生み出す存在として捉え直す必要があるのではないか、ということです。
いまの水族館は、ただ生きものを「見る」場所ではありません。海や川の環境、地域の自然、暮らしとのつながり、さらには未来の社会のあり方まで考える入口にもなっています。そうだとすれば、そこで活動するボランティアも、単なる補助役ではなく、もっと大きな意味を持つはずです。
私は最近、水族館ボランティアを考えるときに、三つの段階で整理するようになりました。
1つ目は、時代に合わせたボランティアという視点。
2つ目は、「生きものを知ってもらう人」よりも「コミュニケータ」へという役割の変化。
3つ目は、その先で学びが行動や変化へつながっていくということです。
この記事では、その流れを一般の方にもわかる形で整理してみたいと思います。まずは、これからの水族館ボランティアを捉えるための全体像をお示しします。
「時代に合わせたボランティア」を考える
昔に比べると、いまの水族館はずいぶん多くの役割を担うようになりました。
楽しいおでかけ先であることはもちろん、子どもたちが学ぶ場でもあり、地域の自然を伝える場でもあり、環境問題を身近に感じる場でもあります。研究や保全の情報を発信する場所でもあります。
こうした変化の中で、ボランティアの役割も、昔のままでは合わなくなってきています。
もしボランティアを「人手が足りないところを埋める存在」とだけ考えてしまうと、水族館の可能性はそこで止まってしまいます。もちろん現場では人手は大切です。しかし、それだけを目的にすると、せっかく関わる人たちの力が生きません。
本当に大切なのは、なぜその水族館がボランティアを持つのかを先に考えることです。
来館者との会話を増やしたいのか。
展示をもっと深く楽しめるようにしたいのか。
子どもや家族が自然に関心を持つきっかけを増やしたいのか。
地域の人が水族館に関わり続ける仕組みをつくりたいのか。
この「何のために」が曖昧なままだと、募集の仕方も、研修の内容も、活動の評価も、なんとなくの運営になってしまいます。
そしてもう一つ大事なのは、参加する人の動機が一つではないことです。
生きものが好きだから参加したい人。
学びたい人。
誰かの役に立ちたい人。
仕事や学校とは別の場所で社会とつながりたい人。
人によって入口はさまざまです。
だからこそ、これからのボランティアは、善意に頼るだけの仕組みではなく、多様な人が、それぞれの動機で関わりながら、館の目的ともつながっていける仕組みとして考える必要があります。これが、私が「時代に合わせたボランティア」と呼びたいものです。
「生きものを知ってもらう人」よりも「コミュニケータ」へ
ここで、役割そのものを少し言い換えてみたいと思います。
これまで水族館ボランティアは、「生きものを知ってもらう人」として語られることが多かったと思います。もちろん、生きものの知識を伝えることは大切です。展示の魅力を知ってもらううえで欠かせません。
ただ、これからはそれだけでは足りないのではないか、と感じています。
同じ水槽を見ても、来館者の感じ方はさまざまです。
「かわいい」と思う人もいれば、
「これ食べたことある」と言う人もいる。
「なんでこの色なんだろう」と疑問を持つ子どももいれば、
「地元の海にもいるのかな」と考える大人もいます。
そうした一人ひとりの関心を受け止めて、展示や自然とのつながりにそっと橋をかける。
ここで必要なのは、知識を一方的に説明する力だけではありません。
相手の興味を感じ取り、言葉を選び、会話を生み出す力です。
だから、これからのボランティアは「解説する人」だけではなく、コミュニケータとして考えた方がよいのではないか。私はそう思っています。
コミュニケータとは、展示と来館者をつなぐ人であり、来館者と自然のあいだに新しい見方を生み出す人です。
そのためには、気合いや個人の熱意だけでは足りません。少なくとも、次のような点を考える必要があります。
1つ目は、ボランティアが何を担うか(専門性)。
生きものの知識だけを学べばよいのか。来館者との対話のしかたも学ぶのか。
2つ目は、多様な参加者をどう活かすか(事務局機能)。
忙しい人でも関われるのか。長く続ける人と、時々参加する人の両方を受け入れられるのか。
3つ目は、職員・現場とどうつなぐか(他部門調整)。
飼育、教育普及、展示、運営とボランティアがバラバラでは、活動はうまく育ちません。
4つ目は、続けたくなる関わりをどうつくるか(継続理由)。
学びなのか、役割実感なのか、人とのつながりなど、ボランティアは何を得られるのか。
5つ目は、何をもって良い活動とするのか(評価)。
単に人数や活動時間ではなく、来館者との対話が増えたか、展示を楽しむきっかけが生まれたか、そうした見方も必要です。
これは難しい理論の話ではなく、「よいボランティア制度」をつくるための、ごく素朴で大事な問いだと思います。
その先にあるSocial Action & Change
では、なぜそこまでしてボランティアの役割を考え直す必要があるのでしょうか。
それは、水族館がただ情報を伝えるだけの場所ではなく、人の行動や見方の変化につながる場所になりうるからです。
私はこの学びが行動や変化へつながっていくことを、Social Action & Change という言葉で表現します。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、必ずしも大きな社会運動のことだけを指しているわけではありません。
たとえば、水族館で見た生きものをきっかけに、家に帰って海の話をする。
子どもが「どうしてこの魚は減っているの?」と聞く。
旅行先で、その土地の川や海の見え方が少し変わる。
食べること、暮らすこと、自然とつながることを前より少し意識する。
そうした小さな変化の積み重ねも、立派な Action & Change です。
そして、その入口にはしばしば「人とのやりとり」があります。
展示を見て終わるのではなく、そこで交わされたひと言や問いかけが、記憶に残る。水族館の価値は、そういうところにもあります。
だから、時代に合わせたボランティアを考えることは、単に運営の話ではありません。
「どんな人が、どんなふうに展示と来館者をつなぐのか」という、水族館の未来そのものの話です。
生きものを知ってもらう。
そこから一歩進んで、対話を生み出すコミュニケータになる。
そしてその先で、学びが社会につながる小さな行動変化を生む。
この流れを支える仕組みとして、これからの水族館ボランティアを考えていきたい。
そんな視点が、これからの水族館には必要なのではないでしょうか。

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