前編より続く
近々、水族館の存在意義とは何なのか、という核心へ迫る機会を持つことになります。そこで、過去に訪問した海外の水族館をいくつかの記事に分けて振り返ってみたいと思います。
視察の位置づけと本記事について
2016年には、私の所属する東京シーライフボランティアーズにおける視察の一環として、現地ボランティア活動や制度の特色を学ぶ目的で、西海岸の6つの園館を訪問してきました。こうした観点で現地の複数の園館を視察する報告は少ないと思いますので、記録のためにも共有したいと思います。ここの記事では各園館の運営制度に関する内容は、内部情報を排し一般論しか書けませんが、将来の日本のボランティアの改善につながる示唆を少しでも提供できれば幸いです。
行程
2016/9/30(金)-10/8(土)の6泊8日の旅程で、以下の6つの動物園・水族館を訪問しました。
- Vancouver Aquarium (Vancouver) 10/1(土)
- Point Defiance Zoo & Aquarium (Tacoma) 10/2(日)
- Seattle Aquarium (Seattle) 10/3(月)
- Woodland Park Zoo (Seattle) 10/4(火)
- Monterey Bay Aquarium (Monterey) 10/5(水)
- Aquarium of the Pacific (Long Beach) 10/6(木)
各館の紹介
5. Monterey Bay Aquarium (Monterey)
言わずと知れた、世界の水族館業界の中でも最高レベルの教育活動を提供する水族館。1,300人を超えるボランティアを抱え、その育成プログラムは、大学の授業に匹敵するほど充実した内容であることは有名。
その教育活動は、「海洋環境保全が第一のミッションであり、その1つの手段が教育である」という一貫した哲学が支えている。
Seafood Watch Programという、海の健康と陸の健康がつながっているという考えの元で、どの海産物を食べるようにすれば生態系を保てるかを啓蒙するリストを作成した。国内の他の園館にも展開させている。世界の各地域のバリエーションが存在し、Sushiバージョンもある。
水族館の目の前には、ラッコも暮らしている、ジャイアントケルプの群生する豊かな海が広がっており、それを教材として最大限に活用して、人々へ海とのつながりを提供している。このスペースで、学校向けの教育プログラムを行うこともできる。
6. Aquarium of the Pacific (Long Beach)
市営の水族館であり、収益は環境保護・生態系・海洋資源保護および教育の目的で使用される。市民に対して、なぜ水族館があるか、という役割を伝えることに対するアカウンタビリティをきちんと果たしている。
ボランティアと有給職員の職務内容に区別はなく、人数としてもボランティアの方が多い。その教育内容は、変化する時代の流れや自然環境の変化に応じて、最新の情報をキャッチアップできるような内容も含まれる。
Sustainable Foodという、良い採集や養殖の方法によって海洋資源を持続的に食料としていく考え方を啓蒙している。
総括
各園館の展示に特色があるのは当然ですが、特に動物園・水族館に反対する勢力も意識して、各園館が人々へ訴えるメッセージを確立し、それを伝えられるようなしっかりとした展示を作ることで存在意義を示し、立ち向かう姿勢を強く感じました。特に、水槽の外にはパネルがたくさんあり、そこへ書かれている内容も、人々へ行動変革を促す直接的なメッセージが多かったです。
どの園館も、ボランティアは職員と同等の責任や役割を担っており、両者が互いに尊敬しあい、一体となって水族館を運営していました。ボランティアの活動範囲は、水族館によっては教育にとどまらず、飼育や調査研究などにも及ぶ幅広いものでした。
そのため、採用前だけでなく採用後も、ボランティアに対する教育制度が充実していました。例えば、ガイドマニュアルや、オンライン教材のようなハードと、研修やメンター制度のようなソフトの両面とも充実しており、しっかりと育成しようとする姿勢が伺えました。
そしてどの園館でも「生き物が好きだから、その水族館が好きだから」という理由でボランティアが結集しているように感じました。活動継続に対する表彰、園館主催のパーティー、ボランティア向けの施設利用に関する優待特典など、ボランティアへのインセンティブも充実していましたが、それらは継続意欲を高める要素としてはそれほど機能していないように見受けられました。
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