第10回世界水族館会議からの期待

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日本の水族館は世界に対して何を提示できるのか?その可能性へ大いに期待していますが、その道のりは長く険しいものだと思います。

世界水族館会議とは

私が訪問した海外の水族館の様子をおおむね紹介し終わった後で、2018年に開催された、日本にいながら国際的な水族館業界の動きを知ることができる絶好の機会であった、第10回世界水族館会議を振り返ってみることにします。

世界水族館会議とは、1960年より開催されている、世界の600以上の水族館の関係者が、貴重な水環境の生態系について議論する国際会議です。約6~8万円ほどの参加費で、誰でも参加できます。初めの2回は、モナコ海洋科学博物館で国際水族館学会議として開催され、その後は世界水族館会議に名を改め、大陸ごと持ち回りで開催されています。第4回に1996年に葛西臨海水族園がホストを務め、それ以降は4年おきに開催されてきました。しかし昨今は海と海洋資源の保全の必要性が高まっており、第10回の今回は、前回から2年後の今年、アクアマリンふくしまにて、「水の惑星・地球の未来を考える」をテーマに開催されました。第10回には35か国の約500人が参加し、発表は口頭またはポスターセッションで行われ、「地球規模の環境汚染」、「水族館内の域内保全」、「自然観」、「水族館内の研究・調査」、「水族館の教育活動」、「漁業と水族館の役割」、「水族館の経済学」、「水族館のデザインと建築」という幅広い領域に及びました。

世界レベルでの提言

数々の発表の中では、現代の社会情勢の変化と、その中で水族館が今後果たすべき本質的な役割に対する示唆も、以下のように幅広く提示されました。

  • 漁業を通じた人と自然の関係の歴史の伝承
  • 持続可能な漁業の確立に向けた取組み
  • 自然の中への没入できるプログラムや、展示方法の充実による能動的体験の提供
  • 海洋科学に留まらない教育領域や、アクティブラーニングなどの方法論の見直し
  • Y世代・Z世代に広がる「生物飼育に対する懐疑的意見」への答え
  • トリプルボトムラインの両立だけでなく新しい領域への挑戦
  • セクタや国境・文化を超越した協働
  • 批判に対して恐れずに戦う態度

さらに、水族館の3つの使命は、「海の物語を語ること」・「人々とのつながりを伝えること」・「声を上げ行動を広めること」であるという意見もありました。現代は、例えばソーシャルインパクトが台頭を始めているように価値観が変化し始めています。また、テクノロジーの進歩によって、本物を凌駕するようなVRの体験も出現し始めています。さらに情報の氾濫も進むことで、自然に対する人々の意識も大きく変化し始めています。このような時代に求められるものは、100年近く業界内で受け継がれた4つの役割「娯楽・研究・保全・教育」ではなく、4つの役割を凌駕する、このようなよりハイレベルな概念なのかもしれません。

そして、今回の閉会式では、力強い宣言がされました。

自然と人類の互いの未来のため、人類には地球の水環境の生態系を保護する責務があります。一人一人の日々の行動は、それに貢献することができます。時はせまっています。直ちに行動しましょう。力を合わせれば、変えることができます。

そして、このような変革(Change)のために、技術とパートナーシップが不可欠であり、そのためには特に若い世代を海洋科学へ引き込むことが重要であることにも言及されました。国際的なトレンドとして、UNESCOとIACが、2021年から2030年までの10年をOcean Science Decade(持続可能な海洋科学のための10年)として定めています。次回第11回はこの最初の年、2018年から3年後に設定されました。

日本の水族館に対する期待

日本での水族館会議開催も相まって、日本は経済的な先進国であり、この国際的な動きを先導するイニシアチブを執る、あるいはそれが難しくとも、この動きへ呼応して追随するような、具体的なアクションを取ることを国際的に期待する発言も数多く聞かれました。しかし、そのアクションを取れる水族館が日本にどのくらいあるのか、というところへ大いに疑問があります。日本人はその文化的特性として、国際社会の先頭に立って牽引する役割は苦手かもしれません。けれど、そのような言い訳をして何も動かないまま、国際社会のトレンドから取り残され失望されることへ、私は大いに危惧しています。

偏った意見かもしれませんが、日本の生物飼育や調査研究の技術は高いものの、とりわけ情報発信力やコンテンツデザイン力に大きな課題があるように思います。そういった点において、日本の水族館が変革できない大きな理由の1つは、変革が求められていないからではないかと思います。たしかに、捕鯨とイルカ飼育の問題は、WAZAからの強力な外圧がかかりました。しかし、動物愛護・動物福祉に関する市民の声は、まだ業界全体を動かすほど大きくはありません。それでも、VRなどのテクノロジーの劇的な進化は、今後の日本の水族館へ変革を強要する強力な外圧となるかもしれません。このことについては、改めてより詳しく議論したいと思います。

あれから2年経過した現在、コロナ禍による世界中の「分断」が起こり、世界中の水族館が経営面の大きな課題に直面しています。すなわち、「展示の維持」という水族館の基盤すらも揺らいでいます。日本の水族館は世界に対して何を提示できるのか?その可能性へ大いに期待していますが、その道のりは長く険しいものだと思います。

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